2025年7月の記事一覧
甕棺のふるさと福岡県春日市一の谷遺跡
郷土資料館の甕棺については、以前も触れたことがあります。福岡県春日市からお借りしているものです。
【常設展示】甕棺(福岡県春日市出土)のキャプションを更新しました
この甕棺は、福岡県筑紫郡春日町(現・春日市)大字下白水字一の谷に所在する一の谷遺跡から発見されました。今回は、昭和44年(1969)に、旧春日町が発刊した一の谷遺跡の報告書より、当時の調査成果を紹介したいと思います。
一の谷遺跡の調査成果は『一の谷遺跡ー筑紫郡春日町大字下白水字一の谷所在甕棺等の調査』(春日町文化財調査報告書第2集1969年)にまとめられています。
一の谷遺跡は、那珂川、御笠川にはさまれた春日丘陵と呼ばれる丘陵上に立地します。遺跡の標高は約37mです。周辺には須玖岡本遺跡をはじめとして弥生時代の遺跡が集中しています。一の谷遺跡は、以前から甕棺が埋蔵されていることが知られていましたが、昭和43年5月、急遽始まった土砂搬出工事をきっかけに5月から8月までの期間で調査が行われました。
調査では、甕棺および壺棺墓29基、土壙墓22基、石蓋土壙墓1基、箱式石棺墓1基、溝状遺構4条が確認されました。甕棺は29基のうち7基が小児用の小型のもので、うち1基は壺棺でした。甕棺は2個体を用いた合わせ口のものと1個体だけの単棺があり、形の整っていない竪穴を掘り、その一側面に横穴を掘った墓壙に埋められていました。
資料館で展示している甕棺が出土した15号甕棺墓は、上下2個体の合わせ口の甕棺が不整形な隅丸長方形の穴に横穴を掘った部分に埋められていました。下の甕は、「T」字状に右内側まで張り出す口縁とその直下に山形の凸帯が1条、胴部に「コ」字状の凸帯が2条巡っています。上の甕は、肩の部分から口縁を割って使っており、胴部に「コ」字状の凸帯が2条巡ります。
甕棺内からは人骨が出土し、推定伸長149cmの20歳代の女性と推定されています。人骨には丹(に)と呼ばれる赤色の顔料の付着がありました。
一の谷遺跡がある春日市は、福岡市のベットタウンということで、いまでは、遺跡周辺も住宅街になっています。報告書の写真では、発掘調査が行われた昭和43年当時は農地が広がり、遺跡は周囲が見渡せる丘陵の上に立地していました。
一の谷遺跡の場所:33°31'26.48"N130°26'59.23"E (リンク:googlemap 地点の出典:九州大学総合研究博物館データベース)
以前の記事でもお知らせしましたが、春日市には、春日市奴国の丘歴史資料館があり、ドーム内で須玖岡本遺跡で発見された甕棺墓を発掘調査当時の状態で展示しています。
福岡方面にご旅行の際は、ぜひご見学ください。