道徳授業は他の授業とは違い、正解不正解や採点があるものではありませんが、生徒たちが自立して生きる上で多面的多角的に考える力や人とのコミュニケーションなど、大事な事を考える・人に伝える活動を積み重ねており、聖ヶ丘中学校ではとても大事な教育と考えています。

生徒の気づきにハッとさせてもらうことも多いです。
昨年度の道徳の授業の振り返りで「同じ意見でも、感じ方やそう考える理由が、全く同じ人はいないということに気付いた」という生徒の感想がありました。
生徒達が道徳で感じたこと学んだことを、ここで共有したいと思います。

道徳教育推進教師 三浦 摩利

道徳ノート

道徳ノート007 ひじり坂をあがると・・・

007 ひじり坂をあがると…

テーマ:よりよい社会の実現について考えよう
内容項目:社会参画、公共の精神


生徒の考え・気づき
〈2年生〉
・(道が)綺麗であるのが当たり前ではなく、必ず陰で手伝ってくれている方がいらっしゃることを忘れないでいたい。自分が支える側になれるようにボランティアに参加したい。支えてくれている方を誇りを思いました。感謝したいです。

・自分たちが知らないところでも活躍してくれている地域の人たちがいることに感謝したいと考えたし、ボランティアする側の人になりたいと思いました。これからの活動にはできるだけ積極的に参加したいと感じました。

・私も一度どんど焼きのボランティアに参加したことがあって、最初は何となく、部活で行くってことだし行こっかな、くらいの気持ちだったんですけど、実際見ると沢山の方が軍手をして手を痛めながら組み立てやら沢山のことをしていて、こんなに大勢の人が作っていたんだとか、感謝の気持ちに気付けました。なので部活以外でも行きたいなと思えました。

・自分はまだボランティア活動に参加したことはないが他校の先生や相馬さん(青少協会長)もおっしゃっていたようにチャレンジ(やってみる)することが大切だと思った。

・とりあえず、まずボランティアに参加してみる。そしたら、最初はやる気が起きなくてもやったら達成感や感謝の気持ちが生まれるかもしれない。三郎もやってみたからわかる達成感や景色があると思うので時間があればぜひ参加してみたいなと思った。聖ヶ丘に住んでいて良かった。

・今までなんとなく気恥ずかしくてボランティアなどの活動に参加した事は無かった。しかし、この少年(三郎)のようにたとえ乗り気じゃなく、あるいはよこしまな気持ちでもやってみようかと考えました。自分一人が誰かのためにできる事は限られているけど、だからこそ、どんなちっぽけな事でも誰かを助けることができたらいいなと思いました!

・今回の授業を通して、ボランティアに参加する良さを学んだ。参加する前はやりたくない、面倒だと思うけれど、やってみると気持ちがスッキリしたり、達成感があるので、これからはボランティアに積極的に参加していきたい。

〈1年生〉
・これからはやる前から物事を決めつけずに挑戦したいと思った。

・地域に対して行動してくれる人はありがたいと思っていたが、やりたいとは思っていなかった。だけどこの授業を通して、やりがいや嬉しさを感じられることの良さを感じたので一度やってみたいと思った。

・この多摩は地域の人に守られ輝いているのだなと感じました。このことをいつも頭の片隅に置いておこうと思いました。これからの自分は地域の人に積極的に挨拶していきたいなと思いました。

・最初は掃除より部活の方が楽しいと思ったけど、やってみたら意外と楽しかった事が書かれていた。私もこの話を読んで何にでも取り組もうと思った。

・ボランティアにはもともと参加するタイプではなかったのですが、これからは積極的に参加したいと思った。ごみ拾いで達成感を味わってみたいです。

〈3年生〉

・自分の事だけでなく人に何かを与えようとする気持ちによって生まれたのがボランティアだと思いました。しかし、なかなか0から1を生むのは難しいから1つやってみてみることが1を生むと思いました。

・私はこの授業を通して、ボランティアに参加するだけでなく、自分から創りあげたり、主体性などを培う事で社会に役立っていきたいと思いました。

・嫌だな、やりたくないな、めんどくさいなと思ってることもやってみたら意外と楽しいと思えることが分かった。私は勉強をするのが嫌でめんどくさいけど、少し頑張ってみると、いい結果がでたり嬉しくなるので少し何事にも頑張ってみようと思えました。

・忙しくなればなるほど、自分を第一優先に考えてしまい、ゴミの無いきれいな道や手入れのされている公園に気付くことができなくなってしまうけれど、常に地域の為に行動してくれている人がいることを忘れず、少しでも自分も地域・人の為に行動していきたいと感じた。

・私は今回の授業を通して、チャレンジする心や人を思いやる気持ちを大切にすることで自分の人生を自分の思うより、より良いものにできるのではと考えることができた為、これから人を思いやるような行動をとっていくようにしていきたいと思った。

・めんどくさい、苦手等の意識を持っていることに対しても、一度やってみると考え方が変わる可能性があると分かった。この可能性を無下にしないで、今後の人生に活かし豊かにしていきたいと思った。

・より良い社会を作りあげていくには一人一人が意識を変えていくことで実現されていくと思う。日常を日常としてただ過ごすのではなく、その日常がどのような過程の上で成り立っているかを学ぶことで一人一人の意識は変わっていくと思う。

・ボランティアをやることで初めて気づくこともたくさんあるだろうし、それこそ人生が変わるような出会いや出来事があるかもしれない。やるまではあまり興味が持てなくても、とりあえずやってみるのは大切かもしれない。


授業の概要
この授業は道徳授業地区公開講座として保護者・地域の方々に参観いただき、全学年、全学級が同じ主題・教材で行いました。
教材は「ひじり坂をあがると・・・」(本校の三浦 摩利指導教諭の自作教材)
(こちらをクリックすると教材を読むことができます)
本校の地域である聖ヶ丘を舞台に主人公は気が進まないながらも、地域の清掃ボランティアに参加し、意識が変わっていく。
この主人公の気持ちや体験したことを通して、社会をより良くするために自分はどう主体的に関わっていくのかなどを考えました。

道徳ノート006「銀色のシャープペンシル」

006 銀色のシャープペンシル

テーマ:弱さの克服
内容項目:よりよく生きる喜び


生徒の考え・気づき

・人間だからずるい事をしてしまう時はあると思う。だから大事なのはずるい事をしてしまった後、どう行動するかだとこの話を読んで学んだ。「僕」みたいに遅くなってもいいから謝らないと将来ずっと後悔するしこれから先も人のせいにして生きていくことになると思う。

・自分も後々、もっとこうすればよかったなど、後悔するときに心の声のようなものを感じる時があり、人に擦り付けて自分を正当化するのではなく、誤魔化さずに自分と向き合うことが大切だと考えた。

・ずるい事をした…と思うことはきっと誰にでもあると思う。でも大事なのはずるい事をした、その後だと思った。やってしまった事は変えられないから、その後の反省や正直に謝ったり、振り返ったりして自分を変えようとすることが大事だと思った。やってしまった事は変えられないけど、その後はいくらでも変えられると思った。

 

・「僕」と同じように、自分も心の中で気づいてはいたものの、それを分かってる上で誤った行動をしていた。ただ今回の授業でよろしくないと思いつつしていた行動は自分だけでなく、他人まで辛い思いをしていることに気がつけた。今後は何かする前に自分の考えを多面的に見てみて、正しいことなのか判断したい。

・今回の授業は今までより少し難しかったけど、人に対してではなく、改めて自分と向き合って自分でやってしまった嘘や失敗の重さ、に深く考えることができました。また、何か悪いことがあったらすぐさま人のせいにしたり、嘘をつくのではなく、まずは自分が何かしてないか、自分に対して疑って見直すことが大切だと思いました。

・人は自分の為に行動してしまう事が多いからこそ、相手を出し抜こうとするのではなく、自分の非を認めて相手に向き合うことが大事だと考えたので、後悔の無いように過ごしたい。

授業の概略

主人公は掃除の時間に拾ったシャープペンを自分のものとして使ってしまい、持ち主である友人に聞かれても自分のものだと言い張ってしまう。ロッカーにこっそり返したが、友人から「疑って悪かった」と謝られ、複雑な気持ちになる。最後に主人公は夜空を見上げ、自分自身の心と向き合い、友人の家に向かう。
出典:「道徳教育推進指導資料(指導の手引き)3」文部省

人は誰も弱さや醜さがあるが、それと同時に「気高く生きようとする心」もあることに気づき、自分の弱さや醜さに向き合ってより良い生き方を考える。

この授業は令和6年度 東京都の専門性向上研修道徳(道徳科の基礎・基本)として都内の中学校から30名の教員が授業を参観しました。

道徳ノート005 「あめ細工職人 吉原孝洋」

005 あめ細工職人 吉原孝洋

テーマ:勤労
内容項目:勤労の尊さや意義について考えよう


生徒の考え・気づき

・授業を通して、あることを一生懸命に取り組むこと、続けていくこと、そして仕事に就いたら、その仕事を楽しんでいくこと、色んな人を笑顔にすることが大切なんだと新しい価値観を知ることができた。

・今、将来の事(高校・大学・職業)を悩んでいる中でこの話を聞いて、仕事をする時に大切にしたいことを学べました。私は将来、仕事をする時に楽しい気持ちややりがいを大切にしたいです。そして今やっていることを何事でも頑張って続けていきたいです。

  
(吉原さんの作ったあめ細工。三浦摩利先生がこの2年1組のクラス目標SSR 「S素敵な仲間に S最高の Rリスペクトを」で作ってもらった。)

・今、目の前にあることを一生懸命に頑張れば未来の自分の為になる。道は切り開けるという言葉がとても印象に残りました。どんな気持ちを大切にするかは人それぞれで、もっと話を聞きたくなりました。泥臭くても、夢を追ったり努力をしたりしていれば、見てくれている人は必ずいると思う。その人の為にも頑張りたい。報われない努力もあるけど、無駄な努力は一つもない。そう信じて目の前にあることを全力で頑張りたい。いつかきっと自分の為になるから。

  

・吉原さんみたいにあきらめないで続けること、一生懸命取り組む事で何かを得られると信じるって言葉に、自分も一生懸命取り組んで努力するってことが大事だなと思いました。

・色んな経験を経て、それで結果、夢が変わったり別の道に進んだりしてもいいけど、そうじゃないなら絶対あきらめない。自分一人だけでがんばっているのではなく、周りの人の応援や期待(支え)と何より「昔の自分の夢」を背負っているのだと自覚し、ひたむきにがんばる。あとは自分と同じような子どもを将来笑顔にする!!

・今、やりたいことが決まっていなくても、目の前の事に取り組むのは大事という事が分かったし、自分からチャレンジして自分に合った仕事を選びたい。

・自分が楽しいと思える仕事+誰かが笑顔になってくれる仕事をしたい。自分が決めた目標はあきらめないで最後まで頑張りたい。



授業の概略

現在、少なくなっている日本伝統工芸のあめ細工職人 吉原孝洋さんへ本校の三浦摩利先生が直接インタビューし書かれた道徳教材。(中学校道徳 自作資料集 生徒が思わず語りたくなる24の話 三浦摩利 著 明治図書)
あめ細工職人であることや、あめ細工で人に喜んでもらえることに誇りをもって働いている吉原さんが仕事を通して「生きがい」を得られるまでにどういう過程を歩んできたのか。自らの目的を実現するために働き、勤労を通して社会に貢献し、充実した生き方を実現している吉原さんの姿を通して、勤労の尊さやなぜ吉原さんが生きがいを感じることができたのかを考える。

現在、吉原さんの店舗(工房)を全国の中学生が道徳で学びましたと修学旅行時などに訪れているそうです。
あめ細工 吉原 ホームページ
https://ame-yoshihara.com/for_school/

 

この授業は道徳科 指導教諭の模範授業とし、他地区・多摩市内・本校から約30名の教員が参観し研究協議会を行いました。生徒たち一人一人がしっかりと考え、意見交換し、道徳授業に積極的に参加しているとの感想を多くいただきました。

 

道徳ノート004 「たったひとつのたからもの」

 004「たったひとつのたからもの」

テーマ:生命の尊さ
内容項目: 生命の尊さについて,その連続性や有限性なども含めて理解し,かけがえ
のない生命を尊重すること。

< 2学年 >



生徒の気づき・学び
・授業を受けて生きる事の大切さを今日改めて学べました。私は両親の気持ちを考えたことがなかったのですが、秋雪君のお母さんのように自分の母が思っていてくれているのなら、もっと家族といる時間を大事にしようと思いました。そして、一生懸命に毎日を生きようと思いました。

・どんな命も平等で一生懸命、一秒一秒を大切に、いろんな人のおかげで生きることができることを理解して生きようと思った。

・人生が短いと分かっていても一生懸命に生きることで、幸せに生きられて、今を大切に生きられるのだなと思った。

 
・限られている時間の中で、どんな風に生きていくか。それは自分次第。辛いことがあったとしても、支えてくれている人がいるし、それを受け止めて楽しむことが大切。ハンデがあっても、同じ人間だし、愛してくれる人がいるのだから今を楽しむことが大切。

・人生においてハンデがあったとしても楽しいことが無いわけではないから、どんなときでも自分が楽しいと思えることをすればいいと思う。

・自分の環境や状況を言い訳にせず、限界を超えていくつもりで全力を尽くそうと思いました。

・秋雪くんの話を聞いて、命は当たり前じゃないから今を大切にして生きていこうと思った。何事にも全力で取り組んで精一杯生きようと思った。


授業の概略
ダウン症の障害をかかえて生まれた息子・秋雪くん6年間の生涯を母が記した手記。
人の幸せは、命の長さではない。今現在を楽しく元気に過ごせたら、それが一番大切で喜ぶべきこと…と記す秋雪くんの母の言葉。生命の尊さ、精いっぱい生きるとは何かを考える。

聖ヶ丘中学校ではローテーション道徳授業として、全学年が前期・後期に1回ずつ副担任による道徳授業を行っています。今回は石上貴也先生が道徳授業を行いました。

道徳ノート003「俺じゃないよ…みんなで…」

 003「俺じゃないよ…みんなで」

テーマ:役割と責任を考え、集団で目標を達成
内容項目:よりよい学校生活,集団生活の充実
< 2学年 >


生徒の気づき・学び

・集団で目標を達成するためには「誰かがやってくれる」ではなく「自分からやりに行く」という考え方を一人一人が持ち、ベストを尽くしていくことが大切だと思う。

・一人一人の役割をしっかり果たすことが、どの場面においても大切だ!努力をするからお互いの信頼が生まれる。

・行事なども実行委員だけでなく、全員の協力がなければ成り立たない為、個々の意識を大切にしていこうと思う。

・たとえ自分が望む形で活動に参加できなくても、自分でできる事を探す。投げやりにならず、どんな形であれ、貢献できるのだと強く意思を持つ。

・何かを達成するためには絶対にひとりでは無理だし、誰かに手伝ってもらってできているわけなので、これからも周りと協力して色々な事を達成していきたいです。

・団体で何かを成し遂げるには自分の役割を全うしたり、みんなで協力することが大切だと思った。みんなで目標を達成するためには良い雰囲気と相手への思いやりが大切だと思った!

・全員が目標に対して真剣に向き合う事が大切だと思った。それぞれ色んな想いを抱えていると思うが、全員が目標を達成したいと思ったから成功したと思う。

・体育祭もクラスの皆で挑むけど、みんなの活躍でこそ、できるその楽しさと悔しさがあることに気づいた。

・私も1000m走るよ…がんばるよ…100mも走るよ~

・目標を達成するためには一部の目立つ人だけでなく、多くの人の血がにじむような努力で支えられていることを知った。

授業の概略
1998年長野オリンピック、男子スキージャンプ ラージヒル団体の金メダル獲得を陰で支えたテストジャンパー達。記録も残らない選手たちが、自分の役割と責任を果たすことで金メダルという目標の達成に繋がった。集団で目標を達成するために大切なことは何かを考える。
「中学校道徳自作資料集」明治図書 (作)三浦摩利

道徳ノート002「まるごと好きです」

  002「まるごと好きです」

テーマ:人との上手な付き合い方
内容項目:相互理解、寛容
< 2学年 >

生徒の学び・気付き
・まるごと好きになることでその人本来の良さを知ることができると思った。短所も長所も知って、その人の事を知る。

・相手に興味をもって話してみようという気持ちをもつ。

・会って初めて話した時に心の中で「あっ嫌いだ」と思わないで笑顔で接する。もし自分のストレスになってしまったり本当に嫌と思うなら少しずつ距離をおいていけばいい。

・適度な距離を保つ。その人とのちょうどいい距離を保って良いと思った事は真似をする。苦手な人とは無理に関わらないでおくけど、悪口は言わない。

・相手の事を知る(好きになる)特に苦手だなと思う人の良い所を探す。
 
・相手の印象が全てではなくて、その人には必ず良い所があるから見つける。

・相手の事をすべて認めることは、人と長くて良い付き合いができる事が分かった。そのため、これからは相手の短所を気にせず、まるごと好きになろうと思う。

・人をまるごと好きになるのは自分的には難しいと思うけど、少しだけ意識してみようかなと思いました。

・相手を知るという事は相手を受け入れたり、受け入れてもらったりできると思った。

授業の概略:エッセイ「まるごと好きです」工藤尚子 筆者の転校した中学での具体的な友達づくりの話。まず人に出会うと、好きな部分を探して見つけ、嫌いなところも含めてまるごと好きになる。完璧な人などいないのだから、嫌いな面を放っておき、好きな面を見る事で相手の良さも引き出され良好な人間関係が築ける。

道徳ノート001「短所を武器とせよ」

  001「短所を武器とせよ」

テーマ:自信をもって前向きに
内容項目:希望と勇気、強い意志
< 2学年 >

生徒の学び・気付き

・授業を通して、苦手な事から逃げたりするのではなく、立ち止まって目を向ける事で自分の短所を活かしていくことが大切だと思いました。

・自分も短所、欠点は考えれば考えるほど出てくるけど、それをプラスに考える。その短所を理由に何かを諦めない。挑戦していきたい。

・今まで自分は短所を無理やり長所にしていたけれど短所は人にはあるものだから、無理に長所にせず、短所に向き合っていつか時間をかけてでもいいから長所にできるようにしたい。

・自分のハンデをマイナスにとらえるのではなく、そのハンデをどう活かすのかを考えてプラスとする大切さを知れました。足りないものを埋めようとするのは本能で努力ではないというストイックさがすごいなと思いました。「自分が思うままにやる」自分を信じて一生懸命に活動していく凄さを尊敬したい!!欠点は直らないと思うのではなく、直そうとしていないんだ!!っていうのを気づかされました。自分の欠点をどう生かすかを考えて今後につなげていきたいと思います。

 ・自分にしかできないことをしようと思った。自分のできることをしようと思った。何事も自信をもってやろうと思った。

授業の概略:バレーボール選手としては身長が低いがゆえに、頭を使い技術とスピードを磨くことで逆にそれを武器にして世界と戦ってきた竹下佳江選手。人間は誰でも短所・欠点と向き合うことで新たな創造性に出会う。

道徳教材 ひじり坂をあがると・・・

ひじり坂を上がると…
 
 ぼくは、三郎、聖ヶ丘中学校の1年生。バスケットボール部に所属し、日々楽しく生活している。
 先日、帰り学活のときに、美化給食委員の貴司が
 「今度、21日の放課後、地域清掃を行います。参加希望する人は今週中に申し出てください。」と呼びかけていた。
「部活動がある人はどうするんですか?」という質問が出た。
「清掃活動は、4時半までなので、清掃活動が終わった後、部活動に出られます。」と答えていた。ぼくは、部活動を休んで掃除とかありえないな…と思った。
 その後。貴司から、
「オレも委員として参加するから、参加しないか?」と誘われた。
「いや、清掃は教室だけで充分だから、いいや。」と言って断った。
 
 その日の放課後、部活動の後に、先輩たちが地域清掃の話をしていた。仲のよい裕二先輩や、部長の宏行先輩も1年の時参加したというのだ。ぼくはボランティア活動には全然興味をもっていなかったので、あこがれの先輩たちが参加したということに驚いた。だから思わず、
「清掃活動したんですか?部活動の時間を削ってですか?」
と言ってしまった。すると、宏行先輩は笑顔で答えてくれた。
「オレもね、最初はそう思ってた。正直、面倒くさいと思っていたんだけど、美化給食委員だったから参加したんだよ。でも、参加してよかったと思ったよ。」
由希先輩もうなずきながら答えてくれた。
「わたしも同じようなものよ。美化給食委員の友達に誘われて参加したんだけど、やっぱりやってよかったと思った。」
「三郎もシュート入れる前にゴミ入れてこいよ!」
宏行先輩はシュートを決めながら、すすめてくれた。宏行先輩や由希先輩は一学年先輩だけれど、自分よりずっと大人に感じた。先輩たちがかっこよく思え、ぼくの心は揺れた。その時、クラスの美化給食委員の真理子から、
「三郎も前期、美化給食委員だったんだし、やろうよ。」
と声をかけられた。部活動をやっている方が絶対楽しいと思ったけれど、一回くらいはやってみようかと思い、
「じゃあ、やるか。」
と答えた。そして、ぼくは翌日、貴司に参加することを伝えた。
 
 地域清掃の当日、集合時間の3時半に玄関前に集合した。いつもだったら、練習前のランニングが始まっている時間だ。先輩に誘われて、つい、参加すると約束してしまったが、あまり乗り気ではなかった。

 「ボランティアの皆さん、ありがとうございます。これから、地域清掃を始めます。皆さんは、4時半まで、落ち葉掃き、周辺のゴミをひろってください。よろしくお願いします。」
 とうとう地域清掃が始まった。ぼくはひじり坂周辺の担当になった。活動は僕たちだけではなく、地域イベントで見かけたことのある地域の方が数名参加していた。
 先輩が担当したときは、歩道一面に落ち葉が広がっていたと聞いたが、そこまでではなかった。でも、道のわきに広がっている落ち葉を見て、
「これ、終わるのかな。」と不安な気持ちにかられた。よく見ると、落ち葉だけではなかった。道の端には、たばこの吸い殻がけっこう落ちていた。植え込みの下の方を見ると、お菓子のビニール袋やマスク、空き缶まで落ちていた。そんなゴミを拾いながら、落ち葉を掃き始めた。
「落ち葉っていつの間にかなくなっているけど、誰かがキレイにしてくれてたのか。」とか、「アスファルトの道に落ち葉が広がっているけど、土じゃないんだし、自然になくなることはないんだよな…。」などと思いながら、掃き続けた。大きなゴミ袋はすぐにいっぱいになった。先生の掛け声で終了したが、時間があっという間に感じた。集合場所に行くと、みんな落ち葉のいっぱい入った袋をもって集合していた。
 
 集合場所で、担当の先生からお話があった。
 「一年生の皆さん、今日、初めて聖ヶ丘中学校の地域清掃に参加していろいろ気付いたことがあると思います。ゴミがあまり落ちていないな?と思った人いますか?」
 半分くらいの生徒が手を挙げていた。
 「先週、2年生がだいぶ落ち葉を掃いてくれたので、みなさんはそこまで大変ではなかったと思います。先週は、2年生には遊歩道も担当してもらったのですが、そこには落ち葉はあってもゴミはほとんどありませんでした。それには理由があります。実は遊歩道付近は、聖ヶ丘子ども・おとしより見守り隊の皆さんが毎朝7時50分から8時半までゴミ拾いをされているそうです。知っていましたか?」
 何人かの生徒がうなずいていた。
「毎日通っている道だけど、そうだったのか…。」裕二先輩がつぶやいていた。
 先生は続けて説明してくれた。
「実は、本日、子ども・おとしより見守り隊の隊長の方がお見えになっています!こちらへどうぞ!」
「皆さん、こんにちは。私は聖ヶ丘子ども・おとしより見守り隊の隊長を務めさせていただいております。聖ヶ丘に在住しています。この地域清掃は聖ヶ丘の青少年問題協議会の皆さんがスタートした活動で、ここ数年、聖ヶ丘中学校の皆さんと地域の我々が一緒に活動しています。この時期、皆さんと一緒に活動するのを楽しみにしています。また、私たちは毎朝早朝にゴミ拾いをしていますが、なぜだと思いますか?」
「キレイな道を歩くと気持ちいいから?」貴司が答えた。
「そうですね。皆さんがキレイな遊歩道を歩いて気持ちよく通学、通勤してくれればいいなと思って毎朝活動しています。きっかけは、実は防犯です。」
「防犯?」首をかしげている生徒が多かった。
「防犯なら、暗くなるころにパトロールをすればよいと思うでしょう。それも行っていますが、防犯はパトロールだけではないのです。実は、ゴミ拾いをすることも防犯につながっているのです。『割れ窓理論』という言葉を聞いたことがありませんか?」
 隣のクラスの美化給食委員の奈緒子が答えた。
「1枚の割れたガラスを放っておくと、いずれ街全体が荒れて、犯罪が増えてしまう…だったと思うんですけど。」
「その通り。逆に言うと、公園や地域の清掃活動などで街がキレイになれば、将来発生しうる犯罪を未然に防ぐ効果があるんですよ。まあ、防犯の為に始めたことですが、地域がキレイになって私たちも朝から爽やかな気持ちになります。もう14年間この活動を続けています。」
「すごい…。」
 みんな絶句していた。地域の為に早朝から毎日活動するなんて…。隊長さんは続けて話してくれた。
「本日みなさんが一緒に地域清掃してくれたことも地域の為になっているのです。皆さんが清掃活動をしているのを多くの方が見ていました。中学生がこんなに頑張っているのだから、自分たちも街をよくしたいという気持ちになった方が多くいると思いますよ。私たちもみなさんが一生懸命活動している様子を見て、元気をもらいました。明日からまた頑張ろうと思います。」
 たった一回のボランティアだけど、少しだけでも地域の為になったのなら、自分が参加した甲斐があったな…と思えた。
「三郎、お疲れ様!やってどうだった?」真理子が聞いてきた。
「やってみたら、結構楽しくなってきて、時間もあっという間だったな。」
「よかった。終わったとき、爽快感あったよね。来年もやろうよ。」
と言われた。
「そうだな!やるわ。」
と答えた。この前とは違う気持ちで答えた。

 翌朝、いつもの時間に家を出た。学校へ行くいつもの道、ひじり坂を上がると、学校が見えてくる。ぼくは、勢いよく坂を駆け上がった。振り返ってみると、いつもの景色がちょっと違って見えた。

                         (三浦 摩利  作)
                         (くどうのぞみ 絵)