ブログ

ほごログ

#かすかべ地名の話 (8)#藤塚

春日部市内の地名の話。今回は、現在開催中の企画展「藤・渕・富士 ふじのかすかべ」展でも取り上げている、藤塚(ふじつか)について。

藤塚は、大落古利根川と中川(庄内古川)に挟まれた地域です。現在は住居表示として藤塚が使用され、また、昭和54年に開校する藤塚小学校、昭和56年に開設された藤塚公民館など公共施設の名称にも使用されています。加えて、市の花「藤」が地名にも入っていることから、「藤塚」の地名は地域の方々から親しまれています。

藤塚の地名の初見は、近世前期の記録にみられる「藤塚村」。当時は、武蔵国葛飾郡松伏領に属しました。藤塚村は、現在の住居表示の藤塚と、六軒町・本田町を含むエリアになります。現在使われている六軒町や本田町という住居表示は、藤塚村の村組である六軒組、本田組を由来にしています。藤塚村は、天保13年(1842)には家数141軒、809人ほどの村でしたが、今の藤塚(六軒町・本田町を含む)には6921世帯の方がお住まいの住宅街となっています(令和5年10月現在)。

藤塚の歴史的特徴ともいえるのが、古利根川の縁辺に形成された内陸型の砂丘(河畔砂丘)です。河畔砂丘は、河道の砂が卓越風で飛ばされ、河道や自然堤防に定着してできた砂の丘のこと。藤塚は藤塚橋や香取神社の付近に帯状の砂丘が確認されます。市内では、浜川戸や小渕にも河畔砂丘が分布しています。

江戸幕府が作成した街道図巻「分間延絵図」によれば、藤塚の河畔砂丘と思われる地帯には樹木が植わり、「百姓林」として利用されてことがわかります。古利根川の対岸の備後村の古文書には、対岸に松林が見えると記述されていますので、江戸時代の河畔砂丘は村人が管理する松林として利用されていたものと考えられます。

明治時代になると、藤塚村の高橋豊吉という人物が、外国種の桃樹(上海水蜜桃)3本を宮内省から譲りうけ、県内で初めて桃を栽植したといわれています。明治10年代に作図されるフランス式彩色迅速測図には、藤塚の河畔砂丘は「桃」の果樹園となっており、桃林として利用されていたことがわかります。さらに、藤塚の遠藤栄太郎は、明治35年(1902)に松林を開墾して、天津水蜜桃、上海水蜜桃を計1200余本栽植し、園芸会社を設立しました。植え付けの本数は最大数万本にものぼり、東京や近県の市場に販路を築き、粕壁や越ケ谷付近の諸村でも水蜜桃の栽培が普及していきました。

東武鉄道の開通後には、藤塚の桃林は「桃花園」と称し、最寄の一ノ割駅から藤塚橋を渡って訪れる観光スポットにもなります。

藤塚の桃林は、昭和40年頃まで往時の面影を残していましたが、東武線の地下鉄乗入れを契機として、昭和42年(1967)ごろから民間の建設会社による分譲住宅の開発が進み、桃林は減少してきました。その代わり、藤塚は春日部市内、屈指の住宅街となり、ニュータウン「藤ケ丘文化村」が造成され、今に至っています。

藤塚の桃林の写真は少ないのですが、今回の展示準備で見つけた写真 がこちら。

写真:昭和39年藤塚橋起工式

昭和39年(1964)3月26日の藤塚橋の起工式の模様。藤塚橋付近で行われた式典で、挨拶をする山口宏市長の後ろには、桃樹らしき樹木が植わっています。おそらく、桃の果樹園ではないかと思われます。

 

さて、本題の地名の由来。藤塚の地名の由来としては、二つの説が唱えられています。一つは、富士浅間を信仰する修験や行者によって造られた塚(富士塚)を意味するという説(『埼玉県地名誌』)。もう一つは、川べりの川底が深くよどんで大きな「渕」となり、その渕の上の砂丘にある板碑や墳丘を指す「渕塚」が転化し、「ふじつか」となったという説(古老の話による)。

藤塚の香取神社には、富士塚は残されていませんが、境内に「忠行院林山」(もしくは忠行林山)と名乗る行者の浅間神を祀る近世後期の石碑が遺されており、かつては富士塚が存立していたのかもしれません。神社一帯は河畔砂丘に立地していますので、砂丘の高まり自体を塚と見立てていた可能性も考えられます。もう一つの「渕塚」という説も、河畔砂丘のある「小渕」の「渕」にも共通しています。「地名の由来はこれだ!」という決定打は欠きますが、いずれの説も、花の「藤」というよりも、川べりにある小高い河畔砂丘を由来としています。

牛島のフジ、藤塚、小渕、富士信仰、ダジャレで繋げたテーマでしたが、ここまで関わるものだとは正直思っておりませんでした。

企画展に陳列する藤塚ゆかりの収蔵品はわずかですが、ぜひご覧いただければと思います。

 企画展チラシ

[事業の基本情報]

展示名:企画展「藤・渕・富士 ふじのかすかべ」展

日時:令和7年3月22日(土曜日)~5月2日(金曜日)月曜日・祝日休館。開館時間午前9時~午後4時45分

関連事業:みゅーじあむとーく(展示担当学芸員による展示解説)
     令和7年4月19日(土曜日)午前10時30分~、午後3時~(30分程度)
     予約不要。時間までに展示室へお集まりください。費用無料