東中学校ブログ

知らない間に練習していた

【体育祭逸話2】
 本校には、車椅子で生活している男子生徒がいます。
 昨年度から何とか一緒に体育祭に参加させたいと担任、学年、保健体育科で考えました。そして、昨年度は学級対抗全員リレーに参加して、距離は短くてもクラスの一員として走ることができました。車椅子で数十mを走り、支援員さんに補助してもらい、次の走者にバトンを渡しています。
 今年も学級対抗全員リレーに参加しました。今年の違いは、次のようなことです。
 担任の先生は、バトンを受け取って持つのはつらいだろうから、前の走者が歩行器の前のテーブル部分にバトンを置いて、本人が数十m走ったら、次のランナーがそれをテーブルから取ればいいだろう、と考えていました。
 ところがです。担任の知らないところで、前の走者と後の走者と本人で、バトンを受け渡しの練習をしていたそうなのです。
 当日は見事、前の走者からバトンを受け取り、左手にそれをもって、歩行器を自分の足でこぎながら一生懸命走り、次の走者に渡しました。ちょうど正面本部前のバトンパスでしたから、来賓席や敬老席など、多くのかたが大きな拍手を送っていました。
 担任は、生徒たちが練習していたことを後から聴いて、自分の足りなさを語っています。
 「子どもってすごいですね。本人の苦労を考えて自分では配慮したと思っていたことが、実は逆でした。もっと子どもたちの力を信じて、任せればよかったです」と反省しきりです。
 さらに、歩行器は動き出すのに相当な力を必要とします。廊下や体育館の床は硬いのですが、グラウンドは砂地ですから、小さな車輪を動かす力の量は相当なものです。それを知っていてもなお、次のランナーの生徒は、本人が自分の力で走ってくることを信じて、サポートせずにじっとバトンを待っていました。これもまた、本人の力を信じたすばらしい姿勢です。
 これらは、普段の体育授業でも、グラウンドや体育館を歩行器で懸命に練習する姿を目にしていた同級生たちが、本人の可能性を信じて行った行為なのです。本人の可能性を信じた結果が、本人の伸長をうながすものとなったのです。
 パラリンピック、オリンピックと騒ぎますが、本校の生徒たちが姿勢として示してくれた、考え方の深さ、人間の力や可能性を信じようとする心情等、学ぶものがたくさんあった体育祭でした。やがて、「パラ」・「オリ」と違う名称ではなく、統一されたスポーツの祭典が開催できるときがくることを祈ります。同じ競技場、同じ土俵、同じピッチ、同じコートで、健常者も障がい者も技を競えるときが必ずくることを、今回の中学生の姿勢から強く強く感じました。