2024年8月の記事一覧
校長ブログNo143 カモメは白いと思っていた
海とかもめ
金子 みすゞ
海は青いとおもってた、
かもめは白いと思ってた。
だのに、今見る、この海も
かもめのはねも、ねずみ色。
みな知ってるとおもってた、
だけどもそれはうそでした。
空は青いと知ってます、
雲は白いと知ってます。
みんな見てます、知ってます、
けれどもそれもうそかしら。
海は青色、空は青色、雲は白色...人は生後、視覚が発達するにつれ「〇〇は何色」と物の名前とと色を結びつけながら認識していきます。教科書にも掲載される、金子みすゞさん(本名・金子テル:1903年(明治36年)‐1930年(昭和5年))の詩は、「私と小鳥とすず」に代表されるように、思いやりのあるあたたかい言葉で綴られています。また、「いのち」を見つめる詩も多くあります。
冒頭の詩のように、見る人の心の状況や、環境により本来の色とは違って目に映ることもたくさんあります。海は青という先入観がありますが、このブログでも折々掲載する私が撮った海にもそれぞれ違いがありますし、青とは限りません。私が着任して初めて見た木戸浜の海の色は「黒」。新鮮な驚きでしたから、波の音と共に心に残っています。その後も何度か見た海は、当たり前ですが、いつも違った景色を見せてくれました。金子みすゞさんは、当たり前だと思っていることが実は当たり前ではなかったということに気づき、この詩で「真実」は自分の目で確かめることの大切さについて教えてくれています。そういえば、この夏に訪れた美術展で、鎌倉時代に描かれたという絵に添えられた和歌を思い出しました。
「世の常に見ることは みな違い(たがい)けり
烏(カラス)の黒く 鷺(サギ)も白くて」
解説パネルには「歌意は難しいですが、目に見えているものだけが真実ではないという何か仏教的な意味かもしれません。」と書かれていました。鎌倉時代は民衆にさまざまな仏教の教えが広まった時代であることは理解していても、妙に謎めていることがその後もひっかかっていたのです。でも、金子みすゞさんの詩を読んだとき、この和歌の意味することと似ているなと感じました。しかも先の和歌が詠まれた鎌倉時代と、みすゞさんがたくさん詩を作った大正~昭和初期の時代と、時代が異なっても感覚は同じであることに驚きます。この夏、九十九里の海で撮影したカモメの写真を改めて見返してみると、写真を撮ったときには気づかなかったことが見えてきます。目に見えているものは実は真実の姿ではない。ものごとの真実を見ることは難しいことをこの詩が改めて教えてくれました。
▼波打ち際のセグロカモメ(飯岡にて)
幻の童謡詩人とも呼ばれる金子みすゞさんの詩は、最初、詩人であり作詞家の西條八十(さいじょうやそ)により発掘された。その後、さらに、児童文学作家であり童謡詩人である矢崎節夫(やざきせつお)氏(東京都出身:1947年(昭和22年)~)により再度発掘され、広く知られるようになり小学国語科の教科書の掲載に至った。(教科書掲載初出は1996年(平成8年)です。教師になりたての頃、銚子市で開かれた研修会で矢崎さんご自身から金子みすゞさんの詩との出会いについてのエピソードを伺ったことがあります。)
矢崎節夫氏が館長を務める『金子みすゞ記念館』のサイトはこちらから
https://www.city.nagato.yamaguchi.jp/site/misuzu/
書籍:『海とかもめ』(矢崎節夫・選)
https://m.media-amazon.com/images/I/71S8RRolx+L._SY466_.jpg
過去には、ドラマ特別企画として『明るい方へ 明るい方へ』童謡詩人金子みすゞ(2002年(平成14年)主演・松たか子)や『金子みすゞ物語─みんなちがって、みんないい─』(2018年(平成30年)主演・上戸 彩)などが放映されています。