令和元・2年度 多摩市公立学校
研究奨励校 研究発表 リーフレット

      
教育長挨拶
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誰一人取り残さない教育の実現に向けて 
多摩市教育委員会
教育長 清水 哲也


 多摩市立東愛宕中学校では、多摩市公立学校研究奨励校として、「ユニバーサルデザインを取り入れた教育活動」を研究主題とし、令和元・2年度の2年間にわたり、特別支援教育の視点を踏まえた指導の充実を図ってきました。全教職員の指導の指針となる「愛宕スタンダート」を定めて指導を進め、特に各教科においては、授業の構造化による授業改善を図り、誰もが参加できる授業づくりに取り組んできました。こうした取組は、多摩市教育委員会が目指しているSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の基本理念である、「誰一人取り残さない」を踏まえた教育の実現につながるものであると考えています。
 本研究の成果が市内小・中学校で共有・活用されるとともに、本校においてはさらなる研究の充実を図り、中学校3年間の教育活動を生徒の確かな成長につながる実りあるものとしていくことを期待しています。 

学校長挨拶

ごあいさつ

多摩市立東愛宕中学校
校長 山川 毅


 生徒の問題行動には、必ず背景があります。氷山に例えるならば海面に浮かぶ部分が問題行動であり、海面下にたくさんの見えない要因があります。例えば、学力不振、発達障がい、家庭環境、生育歴などです。「困った子」は「困っている子」という発想、そんな生徒を救う手段として、部活動や行事等があろうかと思います。これは活躍の場を設けるという発想です。それ自体は否定しません。生徒の自己肯定感を高めたり、人間関係のつくり方を学ばせたりする点で教育効果は高いと考えます。しかし、学校生活の多くの時間は「授業」で占められます。その時間に、どれだけ多くの生徒が生き生きと過ごせるか、どれだけ多くの生徒を輝かせることができるかが重要です。それならば、6時間の授業を楽しい時間に変えてやるべきではなかろうか、勉強は楽しい時間と実感させることによりやる気を起こさせ、自主的に学習しようとする態度を養成しよう、この発想が本校の研究の出発点でした。研究の視点は、「生徒が授業に参加しないのは、生徒の特性ではなく、授業を行う側の問題。生徒を変えるのではない。大人が変わる、授業を変える」「支援が必要な子だけが夕ーゲットではない。誰もが参加できる授業。これがユニバーサルデザインの発想。この発想は、インクルーシブ(共生)にもつながり、温かい学級づくり、温かい人間関係づくりにつながる」この2点です。2年間の本校の研究の成果が、他校の教育活動に少しでもお役に立てれば幸いです。

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研究の背景
すべての学級・授業における特別支援教育の視点による
生徒理解・指導の充実と共通実践


 令和3年度から全面実施となる中学校学習指導要領では、予測困難な時代を生き抜くための確かな学力、豊かな心、健やかな体を育成していくことが求められている。
 多摩市においては、「2050年の大人づくり」をキャッチフレーズに、ESD(持続可能な開発のための教育)が重点施策に位置付けられ、本校においても、持続可能な社会づくりに必要とされる資質・能力の育成に取り組んできた。
 また一方で、本校では特別支援教育の視点を取り入れた生徒理解・指導の充実により、生徒の学校生活の安定化を図り、指導の成果が見られるようになってきた。
 こうした背景を踏まえ、これからの未来に希望をもち、持続可能な社会の創り手となる生徒を育成するために、これまでの本校の実践で成果が認められた特別支援教育の視点による生徒理解・指導について、改めて全教職員で共通理解を図り、すべての学級・授業において共通実践を図ることが重要だと考え、本研究を進めることとした。
本校の教育目標
〇深く考えみずから学ぶ人
〇心ゆたかですこやかな人
〇自他を敬愛し協力する人
   良き社会人を育てる
研究前の生徒の実態

【平成30年度 全国学力・学習状況調査(第3学年)生徒質問紙調査より】

①生活習慣
 ▶基本的な生活習慣が整っておらず、家庭での学習習慣の定着が十分でない生徒が多かった。
  

②学習意欲
 ▶学習への意欲が高い生徒が相対的に少なかった。
  

③自己肯定感
 ▶自分に自信がもてないことから、将来への夢や目標を具体的に思い描けていない生徒が多かった。
  

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1単位時間当たりの授業展開UD化への基本FW
基本FWを使った指導案例
研究の成果

1.生活習慣の改善

①基本的な生活習慣の改善
 研究開始前、毎日朝食を食べる生徒の割合は60%であったが、研究を始めてからの2年間で、大幅な上昇が見られた。
 また、生活リズムについても同じように改善が見られた。
 これは、生徒会や保健給食委員会、総合的な学習の時間で毎年実施している、基本的な生活習慣の見直しに向けた取組や、食育などによる啓発活動の効果と考えられる。



②自宅学習時間の増加
 研究開始前の平成30年度全国学力・学習状況調査では、家庭での学習時間が1時間に満たない生徒が45%いたが、令和2年度の12月に実施した本校独自の生徒アンケートでは27%に減少し、顕著な改善が見られた。
 これは、生活習慣の改善や家庭学習の可視化により学習習慣の定着が図られた結果であると考えている。




2.誰もが参加できる授業の実現
~授業の構造化により、授業に集中できると回答した生徒数が増加~

 授業の構造化により、授業の流れが明確になり、見通しをもって取り組めることで授業に集中できる生徒数が増加した。
 下のグラフは本校独自のアンケート結果を示したものだが、研究を始めた年から、授業に集中できる理由が、授業が「わかりやすいから」と回答する生徒数が増加している。
 令和2年度の生徒アンケートでは、「授業がゆっくりでポイントも明確だから」、「(授業で使用する)プリントがわかりやすいから」といった記述回答もあり、授業の構造化を踏まえた授業改善の取組が、生徒の授業への参加意欲につながっていると考えている。
 本校独自の生徒アンケートにおける、「友達とよく話をする方だと思いますか」という質問に対して、平成31年度(令和元年度)の研究開始当初は54%だった回答が、同年度12月の調査では57%、令和2年度の7月の調査で62%、最終調査で64%と回を重ねるごとに上昇していった。
 また、「友達の話をよく聞いてあげる方だと思いますか」という質問に対しては、肯定的回答が95%前後で推移した。これは、授業での自己決定を尊重したり、前向きに認め励ます声かけを続けたりしたことで、生徒がコミュニケーションに対する不安を緩和できたこと、ユニバーサルデザインを取り入れた授業実践を通して、基礎学力が向上したことにより、自己肯定感を高められた成果と考えている。

 授業者からも、授業の山場をつくり、生徒への問いかけを工夫することで、授業の目標と流れが明確になり、授業改善を図ることができたという感想が聞かれた。




3.自己肯定感の育成
~温かい人間関係の構築~

 

 本校独自の生徒アンケートにおける、「友達とよく話をする方だと思いますか」という質問に対して、平成31年度(令和元年度)の研究開始当初は54%だった回答が、同年度12月の調査では57%、令和2年度の7月の調査で62%、最終調査で64%と回を重ねるごとに上昇していった。
 また、「友達の話をよく聞いてあげる方だと思いますか」という質問に対しては、肯定的回答が95%前後で推移した。
 これは、授業での自己決定を尊重したり、前向きに認め励ます声かけを続けたりしたことで、生徒がコミュニケーションに対する不安を緩和できたこと、ユニバーサルデザインを取り入れた授業実践を通して、基礎学力が向上したことにより、自己肯定感を高められた成果と考えている。

 

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研究のまとめと課題
 本研究では、誰もが参加できる授業づくりを目指して、主に生徒の生活習慣の見直し、教員の授業改善、教室環境の整備の3つの観点で研究を進めてきた。
 授業に参加し学力の定着を図るために、授業に集中できる土台づくりが大切であると考え、生活リズムを整え、体力を養う朝食を食べるよう促す取組を続けてきた。
 また、家庭学習の定着のために、学習内容の可視化に取り組んできた。授業改善においては、授業のユニバーサルデザイン化モデルを活用し、生徒が新しいことに気が付く瞬間(授業の山場)から逆算した授業展開の構築、効果的な学習の目標の発信と共有方法について研究を重ねてきた。
 教室環境については、板書の構造化の観点から全教室でミニ黒板を設置し、目標や課題を意識させる板書を行うとともに黒板回りの整頓をすることで、生徒の集中力を高める取組を実践してきた。
 その結果、日常の些細な教育活動への取組が、すべての生徒の成長を促していることに気が付いた。
 すべての教育活動に意味をもたせることで、不登校出現率の減少や、授業への集中度を上げることにつなぐことができたと考えている。
 普段の何気ない声かけや配慮、各教員が取り組んでいることを顕在化させ、学校内で共有して全員で取り組むことが、生徒の生活習慣の改善や、誰もが参加できる授業づくり、授業への集中と学習意欲の向上など、様々な教育場面に有効であると考えられる。
 一方で、授業のユニバーサルデザイン化を進めるに当たって、すべての単元に今回提示したフレームワークが必ずしも当てはまるとは限らないこともわかった。
 ユニバーサルデザイン化モデルを活用して、授業改善に努めることの意義は大きい。
 しかしそれ以上に、目の前の生徒の実態を踏まえ、生徒を主体とした授業改善を進め、より柔軟性のある枠組みを構築することができれば、より多くの生徒が参加できる授業づくりができるようになると考えており、これは今後の課題である。
 何か新しいことや、特別なことを始めるのではなく、日頃実践していることをもう一度見つめ直し、ユニバーサルデザインの視点から捉え直すことで、誰もが参加できる授業づくり、教育活動につなげることができると考える。
 今後も本研究の成果と課題を教育活動に生かしていきたい。
研究の経過
内  容 備 考
平成31年度(令和元年度)
 4月  校内研修① 「特別支援教育における合理的配慮について」  講師:西島明佳先生
   全国学力・学習状況調査(第3学年)  
 6月  生徒アンケート調査①(実態調査)  
   小中連携事業「発達段階に応じた特別支援教育のポイント  講師:小貫悟先生
 7月  東京都児童・生徒の学力向上を図るための調査(第2学年)  
 8月  校内研修② 「分科会」  
 11月  校内研修③ 「3年技術」研究授業(実技教科)  講師:小貫悟先生
 12月  生徒アンケート調査②(実態調査)  
 2月  校内研修④ 「1年英語」研究授業(5教科)  講師:小貫悟先生
   次年度に向けた教室整備の配慮事項の確認  
令和2年度
4月   校内研修① 「落ち着いて授業を受けるための環境  講師:髙倉廣先生
   校内研修② 「愛宕スタンダード」の思考  
   環境のユニバーサルデザイン化チェックリストをもとにした整備  
5月   校内研修③ 分科会  
6月   校内研修④  
7月   生徒アンケート調査③(実態調査)  
   校内研修⑤ 「2年美術」研究授業(実技教科)  講師:小貫悟先生
8月   校内研修⑥ 「愛宕スタンダード」の再確認  
9月   校内研修⑦ 指導案検証  
10月   校内研修⑧ 「1年社会」研究授業(5教科)  講師:小貫悟先生
12月   生徒アンケート調査④(実態調査)  
   校内研修⑨ 「発表会に向けて」  
1月   研究発表時の指導案最終提出日  
   校内研修⑩ 研究発表リハーサル  
2月   研究発表準備研究発表リハーサル  
   研究発表  


○講師紹介○

明星大学 教授 小貫悟先生
愛和小学校 特別支援教室専門員 髙倉廣先生
多摩永山中学校 指導教諭 西島明佳先生
おねがい
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