郷土資料館の収蔵資料

収蔵資料の紹介

資料名 加藤楸邨色紙(かとうしゅうそんしきし)
年代 平成3年(1991)
法量 24.1×27.1cm
資料種別 文学資料
文化財指定 未指定
収蔵番号等 常設展示
資料写真
解説 この色紙は、加藤楸邨(かとうしゅうそん)が当館の第2回特別展「砂丘」に訪れたのち、記念として当館に寄贈されたものです。昭和6年(1931)、楸邨26歳の時の句である「棉の実を摘みゐてうたふこともなし」を自筆したものです。
加藤楸邨(1905~1993)は昭和に活躍した俳人です。東京生まれで、本名は加藤健雄。昭和4(1929)年に旧制粕壁中学校(現・春日部高等学校)の教員となり、昭和4~12年(1929~1937)の8年間勤めました。粕壁町(現・春日部市)の粕壁医院(現・安孫子医院)で診療していた水原秋櫻子(みずはらしゅうおうし)と交流を持ち俳句の世界へ入りました。粕壁は、楸邨にとって、私生活においても、俳句においても出発点でもあり、一生涯忘れられぬ地となったそうです。
この句が詠まれた当時、古利根川と古隅田川が流れる市内に棉畑が広がり、晩秋には棉の実を摘む農婦らの姿が見られました。歌を口ずさむわけでもなく話すでもなく、黙々と働く者の中には楸邨の教え子もいたそうです。牧歌的な明るい風景と厳しい農婦らの労働する姿や、その過酷なる生活ぶりを見て、楸邨は「うたふこともなし」と、歌おうにも歌うことができない境遇、黙々と働く姿を見た感動を表現しています。
図1
図2
図3
図4
語注 水原秋櫻子(みずはらしゅうおうし): 明治25~昭和56年(1892~1981)。俳人であり医師でもあった。「馬酔木(あしび)」を主宰。
古利根川(ふるとねがわ) :葛西用水路を上流とし久喜市の青毛堀川(あおげぼりかわ)の合流点付近から松伏町南端での中川との合流点までのおよそ27キロをいう。
古隅田川(ふるすみだがわ): 古利根川の支流。春日部花積南部と岩槻地区を起点とし、梅田地区で古利根川で合流する。
参考文献 春日部市郷土資料館『俳人 加藤楸邨と粕壁』(2010年)
石寒太『加藤楸邨の一〇〇句を読む』(飯塚書店、2012年)8頁~12頁
矢島渚男『名句鑑賞読本3 楸邨俳句365日』(梅里書房、1992年)187頁
その他 (このページの製作者 平成26年度博物館実習生・大野桃多)