~生徒・教職員の笑顔と希望が溢れる学校~

泣く 新人戦エピソードⅤ(最終)~野球部

 「温かな顧問のため息」

 

 新人戦3日目。野球準決勝第2試合は、大増中対東中の、手に汗握る接戦の試合となりました。

 先攻の大増中も後攻の東中も、ランナーを2塁・3塁まで進めるのですが、なかなかあと一本が出ず、5回裏まで0が並んでいます。

 残り6回と最終回7回の攻防でこの試合が決まるのか、あるいは、サドンデスになって、ノーアウト満塁のシュチエーションで決勝進出校が決まるのか、そんなハラハラドキドキの試合展開でした。

 大増中は6回の表の攻撃も「0」で終え、守備陣がグラウンドに散っていきます。6回裏の東中の攻撃です。先頭バッターがフライを上げます。そのフライをいとも簡単に本校の選手がつかんで1アウト。

 そのときです。ベンチにいた監督の顧問教師が、ため息交じりに、

「うまくなったよな」とポロッとひと言、小さな声で洩らしたのを私は聞き漏らしませんでした。そこで、私は、「うん、うまくなった。よくがんばっている」と言ったのです。

 野球部は12名。9名のレギュラーに控えが3名。出場ギリギリの状況で試合に臨んでいます。しかも、最初から上手な選手がそろっているわけではありません。全員が交代で出場できるように、これまで顧問が鍛え上げてきたのです。先ほどのフライを取った選手も、これまで何度エラーをしてきたことでしょうか。「いとも簡単に」とは述べましたが、「簡単に」させるために、どれだけ練習をさせ、叱責し、誉めて励まし、元気づけ、自信をつけさせてきたことなのか、その思いが「うまくなったよな」というため息の言葉に含まれているのです。

 さらに、この言葉から生徒たちへの顧問の愛情の深さが伝わってきます。土日も休みなく、一生懸命面倒を見てきた成果が、緊迫するゲームで表現されているのですから、指導者としては指導者冥利に尽きるというものです。エラーのない試合ができることは、相当鍛え上げないと不可能なことです。

 子どもは、大人の大きな愛情という栄養に育てられていきます。どんな環境にあろうとも、子どもは大人の愛情があれば元気に育ちます。その愛情はやがて、次の世代に受け継がれていきます。私たちは、こうやって何世代も社会のためにがんばれる人を育て上げてきたのです。そんな育ちの循環を、フライトを「いとも簡単な」ように処理した生徒の姿に感動した、先生の言葉から感じとりました。

 試合は、東中も6回裏は0点。7回表の本校の攻撃も0点。7回裏1アウト満塁で、ピッチャーゴロをホームでホースアウトにするつもりでしたが、残念、ランナーが一足早くホームイン。1点。サヨナラ試合となりました。

 でも、これからです。本校の野球部員が深い愛情によって、きっとこの冬の間に確実な成長を遂げるだろうことを確信できる、試合であったからです。

 なぜなら、「サヨナラ」には、「また明日ね」という意味が含まれていますから。