学校の様子

ラストページまで駆け抜けて!

10月27日読売新聞 編集手帳より

スーパーの果物売り場がみかん色に染まっているのに気づいて、芥川龍之介の短編「蜜柑」を思い浮かべた。物語には芥川が自身を投影したかのような、神経質な男の見た情景が描かれる◆汽車に乗ると目の前に少女が座る。「私」は不快な視線を投げる。イライラがなお強まるのはトンネルの中で、少女が窓を開けた時の事。汽車の吐き出す煙が入り込み、むせてしまう◆だが、直後、少女が窓からミカンを放り投げた瞬間に心象風景は一変する。奉公先に赴く少女が線路のそばまで見送りに来た幼い弟たちの思いにこたえようと、親が持たせたかした果物を与えたのだと察したからだ。◆芥川はこう描写している。「暖な日の色に染まっている蜜柑が凡そ五つ六つ…子供たちの上へばらばらと空から降ってきた…私は思わず息をのんだ」きらきらと日を受けて宙を舞うミカンの映像が浮かびませんか◆本誌に以前こんな小学生の詩が載った。「本を読むとわたしだけのえいがかんがはじまる」。活字を心の中で映像にへんかんするのだろう。本は”観て”楽しむものだと思う時がある。今日から読書週間。